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研究について

 地球誕生以来,数限りない自然の化学反応によって生み出された ”生物” は地球の最高傑作といえます.生物は化学分子の集合体であり,生命活動は化学反応の組み合わせです.自己複製して自己修復する自立したこの生物は環境変化に適応します.この見事な生命現象に学び解析を行い,現代の社会生活・産業に活かす研究が行われています.

 本研究室では,生体膜で繰り広げられる現象の分子・遺伝子レベルの解明をめざし,生体機能分子の利用につなげる研究を行っています.生体膜は,物質の特異性を認識し,選択する場であり,生体エネルギーの生産と変換を行っている細胞領域です.環境適応力の機構,増殖成長,分化機構を理解することによって,地球環境にも配慮した適切な生物・生命工学が形成されます.最先端の未知であった現象の解明を行う日々の研究から,新規な知見と意義ある結果が導き出されます.

環境適応イオン輸送体の解明

 脱炭素社会・地球規模の環境変化にともなう砂漠化に備えて,乾燥・脱水・塩害に強い植 物の創生をめざして分子レベルで解析しています.植生限界の拡大(砂漠化を防ぐ),汚染 元素の除去(バイオレメディエーション),化学物質・津波による土壌の塩蓄積など環境変化に柔軟に適応する機構の解明と強化につながります.

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植物の塩害を軽減するNaトランスポーターの解明

 

 塩類の蓄積は,細胞の浸透圧を高めて脱水を引き起こすことから,地球規模の耕地の砂漠化の原因のひとつです。意外な事実として人に必須のナトリウム(Na)は,植物の養分ではなく,塩ストレスの原因元素(毒性元素)です.

 植物の3つのNa輸送体が1990年後半から2000年に見つかりました.SOS1,NHX1,HKT1です.HKT1(High-affinity K Transporter 1)は微生物などではカリウム(K)輸送を行いますが,植物のシロイヌナズナのHKT1(AtHKT1)は強いNa輸送活性を持っていました.根茎の道管に入ったNaを除去して,植物地上部にNaが移行するのを防いでいることがわかりました(2000-2009年).つまり,根よりも地上部(特に生殖器官の花芽)は塩害に弱いため,Naが花芽へ送られないようにしています. 2023年には,HKT1は花芽でも機能し,高塩濃度から花芽の種子形成を守ることが示されました.留めることができずに道管を経て花芽に到達したNaを篩管にのせて根に送り返すことが明らかになりました.

東北大学

https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv_press0605_01web_na.pdf

日経新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP656260_R30C23A5000000/

客観日本(中国語翻訳)JST

https://www.keguanjp.com/kgjp_keji/kgjp_kj_nlmy/pt20230703000003.html

 

  1. Uozumi et al. Plant Physiol, 2000,

  2. Kato et al. PNAS, 2001

  3. Maser et al. PNAS, 2002

  4. Sunarpi et al. Plant J, 2005

  5. Hamamoto et al. Curr Opin Biotechnol, 2015

  6. Uchiyama et al. Sci Adv, 2023

バイオスティミュラント(生物刺激剤)の開発

 イオンチャネル・トランスポーターのイオン輸送活性は,膜電位,細胞内浸透圧,酵素の 活性化,細胞伸長を直接調節します.電気生理測定,生物化学法で測定し,機能評価を行 います.さらに,環境順応性に関わるイオン輸送体の制御化合物をケミカルライブラリー から探索して,分子標的化合物の単離をすすめています.植物自身の環境適応性の向上を 目的に、生物刺激剤(バイオスティミュラント)の開発をめざしています.

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植物生理を制御する天然物化合物 

 植物は発芽から実をつける一生のなかで,日照り,乾燥,風雨,弱光,雑草,病原菌感染などの環境変化に見事に適応しています.植物は気孔の開閉は,心臓・肺に相当する機能を持っています.その気孔開閉を調節する化合物を探索しています.緑茶カテキン(天然化合物)が気孔開閉にかかわるイオンチャネル輸送活性を調節することが示されました.乾燥に対抗する植物の反応経路を抑制することがわかりました.イオン輸送体を分子標的とする化合物の探索によるバイオスティミュラント候補物質の単離とそれを用いた生理現象の解析をすすめています.

 

東北大学

https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/05/press20220518-02-catechin.html

日経新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP632546_Y2A510C2000000/

 

  1. Sato et al. Adv Sci, 2022

  2. 佐藤奏音,石丸泰寛,魚住信之,バイオスティミュラントハンドブック,2022

植物の気体窒素肥料生成


 窒素(N)は植物の重要な栄養素です.世界の窒素肥料の製造はハーバー・ボッシュ法(ノーベル賞)に依存していますが,莫大なエネルギー消費して二酸化炭素を排出します.また,過剰な残留窒素は土壌汚染を引き起こします.プラズマ装置を介して空気から生成されるN205を植物の窒素源として利用しました.水分で構成されている植物や培養液に
気体N205を処理すると葉面や根の周辺に硝酸態窒素に変換され,窒素源の欠乏を克服することができました.窒素施肥の代替法の一つを提案しました.


東北大学
https://www.eng.tohoku.ac.jp/news/detail-,-id,2853.html
https://www.che.tohoku.ac.jp/news/research/article.html?news_id=435


 1. Yamanashi et al Plant Mol.Biol. 2024

微生物の環境適応メカニズム

 微生物(大腸菌や酵母)は,生物の基本メカニズムの解明に貢献します.機械的な物理的な刺激を感知するMechanosensitive channelは,イオンを輸送する役割だけではなく,外界の変化を細胞内に伝達する情報伝達装置の役割をもちます.温度などの変化を感知するTRP(Transient Receptor Potential)の基本型が酵母の液胞膜に存在しています.細胞内情報伝達に重要なイノシトールリン酸やCaシグナルのエフェクターとして機能しています(図2a).また,細菌は生育環境が悪化すると,バイオフィルムやフロックを形成して巣ごもりして生存を確保する戦略をとります.生体膜の二成分系センサー装置や細胞壁合成酵素が細胞状態を大きく変化させるスイッチとなります(図2b).

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セシウム(Cs)輸送体とCsを利用した細胞の増殖

 

 セシウムは非栄養元素ですが,微生物・植物はKトランスポーター(Kup)によってCsを吸収します.養分元素Kが少ない環境では微生物はCsを利用して増殖しました.この時,高親和性K輸送体が少量のKを吸収することでCsによる生育を助けていました.非栄養元素Csを使う能力を微生物はもっています.

 

  1. Tanudjaja et al. Sci Rep, 2017

  2. 魚住信之 生物工学, 2018

光合成を最適化する輸送体

 藍藻(cyanobacteria)は植物の葉緑体の祖先です(細胞内共生説).光合成細菌(藍藻)を調べれば,光合成の仕組みが理解できます.昼夜変化に応じた光合成を調節するために,イオン輸送体が連携して機能しています(図1a).輸送体の遺伝子発現は生物時計の支配下にあり,24時間周期:概日リズムによって1日の活動を最適化していました(図1b).この研究は,再生可能な生命エネルギー生産と先進国に強く求められている化石燃料を使わない脱炭素社会の実現に貢献します.

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光化学反応系の最適化

 光合成微生物(藍藻など)や葉緑体は光エネルギーを変換して炭素固定反応を行っています.エネルギー消費をする動物の生存を根底からささえています.光合成明反応における エネルギー変換に関与する未知のイオン輸送体の解析,重要な情報伝達および生体内調節分子として認識されつつある硫黄化合物の同定とその機能解明解析を行っています.

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イオン輸送体の機能・構造の解明

 成長,分化や環境変化にともなって細胞内分子や生体膜分子装置は調節されます.その調節因子の解析おいて,リン酸化,脂質修飾など,複雑かつ巧妙な分子とその特徴を明らかにする研究を行っています.輸送体間の共役系を藍藻,基本生物の大腸菌,酵母,植物に加えて,無細胞合成系、反転膜小胞調製,蛍光・発光計測,分子認識を用いて特性と分子機序の検討を行っています.

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